健康管理

「花粉症の原因になるものは?」と聞かれたら、スギやヒノキをまっさきに思い浮かべますよね。しかし、スギによる花粉症は日本特有のもの。実は海外での報告はあまり多くありません。
スギはブタクサとは違い、戦後に突然入ってきた外来種ではありません。スギは日本固有の植物で、約200万年前にはすでに日本国内に自生していたと言われています。私たち日本人とスギとの関係は古く、今日に至るまでスギを植林、管理、保護し活用しきました。伊勢神宮や出雲大社をはじめ、歴史ある日本の木造建造物の多くがスギやヒノキで作られていることからも、どれだけスギが生活に根付いた存在なのかが伺えます。また、優秀な材木として日常生活に役立ててきただけでなく、屋久島の縄文スギなどのような古木や巨木には神が宿るといい、神木や天然記念物としても大切にしてきました。このように、スギは世界に誇れる日本独自の歴史的文化財とも言えるものなのです。
花粉症が報告されるようになったのは約40年前からで、ごく最近のこと。長い間、私たちの身近な木材として親しまれてきたスギの木。それがなぜ突然悪者扱いを受けることになってしまったのでしょうか。なぜ今になってスギと私たちの関係が「アレルギー」という形でおかしくなってしまったのでしょうか。
日本は国土の67%が森林ですが、そのうちの約18%、広さにしておよそ450万ヘクタールがスギ林です。そのほとんどが1950年から1970年代にかけて、高度成長期といわれる時代に植えられたものです。戦後、日本では国の政策で拡大造林が行われ、焼け落ちた山々には大量のスギやヒノキが植えられたのです。
ところが、植えたスギが立派に育ち、ようやく出荷できる頃には世間は一変。景気は安定し、海外から安い木材がどんどん輸入されるようになっていたのです。そのため、輸入木材よりも高いスギの木は売れなくなってしまいました。需要が少なくなってしまったスギは、そのままひっそりと林の中で生きるしかなかったわけです。日本の林業はその後もずっと低迷し、一部の優良林業家の所有林を除いて、現在でも放棄されたままの植林地が多く残っています。
人々が育てることを放棄してしまってもスギたちは力強く育ち、植樹から20年~30年の歳月を経て花をつけ花粉を出す樹齢を迎えました。人々が植林管理を放棄しスギ林を放置、切ることもせずに今日まできてしまった結果、花粉が大量に飛散するという事態になってしまったのです。
当時、植林管理を行っていた人々や世間の人々に花粉症への知識や関心があればよかったのですが、それは今更悔やんでも後の祭りです。花粉症への感心が低く、対策や治療が進んでいなかったこともあわせ、爆発的にスギによる花粉症が増えてしまいました。
「スギの木が多いから、スギの植林地が都市近郊にあるから花粉症の患者が増える」という話をよく聞きますが、これは少し違います。確かに、スギの植林地がなければ、スギによる花粉症もずっと少ないはずです。しかし、それを全て伐採してしまったらどうなるでしょうか?

日本の自家用車4,500万台が年間に排出するCO2(二酸化炭素)の量は1億350万トンといわれています。そのうち約1万トンあまりのCO2(二酸化炭素)をスギなどの森林が吸収し、7,300万トンのO2(酸素)を生み出しているのです。たとえ森林伐採によって花粉症の患者数が減ったとしても、もっと大きな問題が残ることは否めない事実です。スギ林の多さやその花粉を責め、それをどうこう言う前に考えること、すべきことがあります。それは「間伐(かんばつ)」と「枝打ち(えだうち)」、そして「消費」です。
間伐というのは、成長に伴って増えすぎた木などを適当な間隔で伐採することで、これによってすみずみまで日光が当たり、土壌の良い健全な森林に育つことができるようになります。枝打ちというのは、ある程度生長した木の枝を付け根から切り落とすことです。枝を伸びきったまま放っておくと、森林の中に光が届かず暗くなってしまいます。そうなると、枯れて腐った枝などから病気や害虫が侵入し木の品質が悪くなってしまいますし、土壌にとってもよくありません。
無法地帯と化したスギ林では間伐や枝打ちが行われ、育ちすぎて花粉をつける時期になってしまったスギは伐採し、若い木々に太陽の恵みがしっかり届く本来あるべき健全な姿の森林が増えること―これが花粉症の抜本的改善と、地球環境を守るために必要なことなのです。
輸入木材の安さは確かに魅力的です。しかし、国産のスギやヒノキをもっと見直すことを忘れてはいけません。国産のスギやヒノキの消費量が増えれば、おのずと花粉症の発生を減らすことにつながります。
花粉症対策として、花粉を出さないスギの開発も行われていますが、これは時期尚早。開発には長い年月がかかりますし、スギ花粉による問題の本質的な解決だとは決して言えません。幸せな未来を後世に伝えていくためにも、自然と共存するためのサイクルを壊してはいけないのです。
「植える・育てる・切る・使う」そして「土に還す」という本来のサイクルを守ってスギと生活していた頃にはなかった花粉症。これは、自然と共存するルールを破った人間たちの罪に対する罰なのかもしれません。