怪しい健康情報の見抜き方

情報とはその信憑性は様々であり、多面的に捕らえる必要がある・・・。
「○○革命」というタイトルを見ると、胡散臭く思ってしまうのは私の悪い癖です。「免疫革命」という本を手にしたときも少々疑いの目で見てしまいました。そこで、私はこの本を読む際、先入観を排除するためその内容を色分けすることにしました。著者の仮説は青、基礎研究は緑、症例報告程度の情報はオレンジ、臨床研究で証明されている部分(エビデンス)は赤という具合です。そうすれば、どこまでがエビデンスでどこからが著者の意見であるかがはっきりします。しかし、その試みは程なく挫折しました。途中まで読み進めたところで、その本の大部分が青1色に染まってきてしまったからである。
著者の理論を強引に要約すれば以下のようになります。
血液中の白血球は顆粒球とリンパ球に大別される。このバランスは自律神経に支配されており、自律神経はその人の精神状態により変化する。ストレスが加わると、交感神経優位となり顆粒球が増加し組織を障害する一方、リンパ球が減少し免疫力が低下する。その結果がんが発生しやすくなるという。だから、ストレスをためない生活習慣ががんを防ぐのだと著者は主張します。これは著者の行ってきた基礎研究から導き出された仮説です。臨床的に証明されているわけではありません。その書籍の中には患者の体験談が掲載されていますが、なぜそれを症例報告として掲載しなかったのか、私には不思議でなりません。単なる患者自身の体験談と医師の客観的評価に基づく症例報告とではその信頼度がまるで違うからです。
「癌(ガン)にならないためにはストレスを減らして免疫力を高めるべきだ。」という意見はもっともらしく聞こえるし、私たちの実生活からも受け入れられやすい。しかし、これではすでに癌になった人たちは救われません。癌になっただけでショックなのに、癌になったのは自業自得だというのではあまりに酷ではありませんか。癌の患者さんに対して、癌の原因がその人にあると責めるべきではありません。その一方で、このような権威のある人の仮説は、著者のあずかり知らないところで独り歩きし、代替医療の宣伝に利用されかねないのです。
免疫と癌との関係について、癌免疫にかかわるとされるNK細胞活性を低値、中等度、高値に分け、癌の発生率を11年にわたって調べた日本のデータがあります。NK細胞活性が低い人では確かにがんの発生率が高かったが、その活性が中等度と高値の人たちの間では差はありませんでした。つまりNK細胞活性が高いほどいいというわけではなさそうです。ましてやNK細胞活性の低い人たちがストレスに満ちた生活をしていたのかどうかはわかりません。
癌と免疫の関係に関するエビデンスは少ない。だからこそ仮説が幅を利かせます。いろいろな仮説があってよいのですが、それらはあくまでも仮説であり、一つの仮説だけを信奉することは危険です。一面的な考えを排し、多様な意見に接することも必要ではないでしょうか。最近出版された「免疫信仰は危ない」という本は癌の免疫療法や健康食品に関して多様な意見を紹介した貴重な本です。癌の治療を考えている方に一読をお勧めしたいのです。ちなみに、この本の中で私の代替医療についての意見も紹介されています。
コンテンツ提供: 小内亨先生(おない内科クリニック)