怪しい健康情報の見抜き方

糖尿病にはよくても、脳梗塞、心筋梗塞、関節リウマチの発病率があがる・・・。
先日ある患者さんが「コーヒーを飲むと糖尿病がよくなるのだそうですね。」と私に話した。私は、「コーヒーを飲むと糖尿病の予防効果があるという研究が最近発表されたように思いますが、コーヒーが糖尿病の治療に役立つかどうかはわかりませんね。」と答えました。
コーヒーによる糖尿病の治療効果について私は聞いたことがなかったので、改めて文献を調べてみることにしました。しかし、コーヒーと糖尿病との関連を調べた研究では、以前目にしたことのあるコーヒーによる2型糖尿病予防効果に関するコホート研究しか見つかりませんでした。
この論文によれば、様々な交絡因子を排除した結果、コーヒーを飲んだ人で糖尿病発症の相対危険度は0.5ということでした。他の条件が同じ場合コーヒーを一日7杯以上飲んでいる人ではコーヒーを全く飲んでいない人に比べて糖尿病になる確率は半分に減るというのです。
コーヒーに関する研究は調べてみると結構あります。私はさらにコーヒーと病気の関連についてのコホート研究を探してみました。すると、コーヒーを飲んだ場合、胆石の症状が出る確率が28%、パーキンソン病になる確率が31%、それぞれ低下するとの報告を見つけました。これらの研究からすると確かにコーヒーを飲むことは健康によいように思えます。
しかし、だからといってコーヒーを飲むことを推奨するのは早計です。コーヒーを飲むと心筋梗塞が1.42倍、脳梗塞が2.1倍、関節リウマチが2.2~2.58倍に増えるというのです。どうもコーヒーを飲むことは良いことばかりではなさそうですね。
ここではコーヒーと関連する病気だけ取り上げましたが、実はがんなどコーヒーと関連無しと結論されたものを含めるとかなり多くの研究が存在します。コーヒーひとつとっても、これほどまでいろいろな研究があることに改めて驚かされます。コーヒーは欧米では主要な嗜好品のひとつであるため、これほどまでに研究が進められてきたのでしょう。
恐らく、コーヒーに限らず他にも病気の発症に影響する食品がたくさんあるに違いありません。ただ、今まで調べられていないだけなのです。食品のベネフィット(利益)とリスク(危険性)には見えているものと見えていないものとがあります。たまたまある研究で特定の食品の疾病予防効果が明らかとなれば、その食品はもてはやされる。逆に特定の食品によりある病気の発症率が上昇すると分かれば、とたんにその食品は悪者になります。しかし、研究結果は物事のある一面を見ているにすぎません。従って、限られた情報から食品のベネフィットとリスクを判定することに意味はありません。しかも、食事全体のベネフィットとリスクは食品のそれの総和になるわけではないのです。食事のベネフィットとリスクはあくまでも食事全体として考えねばならないでしょう。
昨今の健康情報番組のように特定の食品の表面的なベネフィットを取り上げそれをことさら持ち上げるようなやり方が人の健康に寄与するかどうかは疑問です。しかもこれでは木を見て森を見ていないことになります。われわれ医療者は情報の限界を知りつつ、木を見ながら常に森をも見る姿勢を崩してはなりません。
コンテンツ提供: 小内亨先生(おない内科クリニック)