怪しい健康情報の見抜き方


朝日新聞の6月10日付日曜版に「不老願望」というエステ取材記がありました。記者は米国の最新のエステ事情を取材・体験することで、自らの若返りも期待したようです。その中で若返り法のひとつとして人成長ホルモン療法が紹介されていました。
その治療法はニューヨークの高級住宅地にある抗老化クリニックで行われていました。解説役の美人所長も自ら成長ホルモンを毎日注射しているといいます。成長ホルモンはペプチドホルモンであり、飲んでも消化管でアミノ酸に分解されてしまうため、経口剤とはならない。したがって、その効果を発揮させるためには毎日注射を打つしかない。それでも、米国では若返りのため人成長ホルモン療法を受けている人は1万人に及ぶといいます。
「これは米国での話なので日本では関係ない。」と皆さんはお思いでしょうが、すでに私のところには成長ホルモン療法についての問い合わせがあります。ただし、日本ではさすがに個人で注射するわけにはいかないので、口内へのスプレー薬や成長ホルモン分泌を促進するといわれる健康食品が中心です。しかし、果たしてこれらの健康食品が実際に血液中の成長ホルモンを増加させるものなのか、きちんとしたデータを見つけることができませんでした。
成長ホルモンを投与して老化を防ぐということの理論的根拠は、論文に基づいているようです。加齢とともに筋肉が衰えたり、骨が弱くなったりするが、それと同時に成長ホルモン分泌も低下することが分かっています。成長ホルモンの補充により、筋肉量の増加、脂肪の減少、皮膚状態の改善などが期待され、種々の老化に伴う問題が解決するというのです。
しかし、この論文をよく読んでみるとその治療対象は単なる高齢者というわけではなく、成長ホルモンの分泌が低下している人たちです。その後いくつか発表された成長ホルモン補充療法の対象患者もやはり成長ホルモン分泌不全の人たちです。成長ホルモン分泌不全は下垂体腫瘍などにより下垂体からの成長ホルモン分泌が低下した状態をいいます。この場合も、筋肉量の低下や骨量の低下が見られますが、加齢に伴いさらに悪化します。いくつかの臨床研究は、成長ホルモンの補充がこれらの問題をある程度改善させることを示しています。どうやら成長ホルモンによる若返り治療はこれらの研究結果を一般人にまで拡大解釈したもののようです。
成長ホルモン自体はもともと人の体の中にあるものだから、その血液中の濃度が正常範囲ならば直接的な副作用はないと考えられます。問題は過剰症です。過剰症ではどのような問題が起こりうるかは先端肥大症を連想すれば分かります。糖尿病、高脂血症、高血圧、・・・。しかも、この疾患では大腸癌のリスクが増加するとも言われています。けっして過剰状態が体によいわけではないのです。
成長ホルモン自体には細胞を若返らせる効果はありません。細胞増殖を刺激したり、タンパク同化を促進させたりして、見かけ上若い体にするだけです。私にはこの人成長ホルモン療法はただ老体に鞭打つような治療にしか思えないのですが・・・。
冒頭で述べた米国のエステを取材した記者は「アメリカの不老願望は確かに切なかった。」と日本に帰ってきたのでした。
コンテンツ提供: 小内亨先生(おない内科クリニック)