怪しい健康情報の見抜き方


臨床医学の場合、人間の頭の中だけで考える理論には限界があり、実際に臨床試験による裏付けが必要です。このことを示す一例としてCAST(Cardiac Arrhythmia Suppression Trial)と呼ばれる臨床試験があげられます。
心筋梗塞後の心室性不整脈が増加すると突然死のリスクが増すのです。したがって、抗不整脈薬により心筋梗塞後の不整脈を抑制できれば突然死を予防することができるに違いありません。この理論に基づいて行われたのがCASTです。ところが、心筋梗塞後、抗不整脈薬(Naチャンネル遮断薬)を投与された群では心室性不整脈が抑制されたものの死亡率はかえって上昇してしまいました。
臨床医学の世界ではこのように当初の理論が覆されてしまうことがたびたび起こりますが、今回発表された研究もそのひとつといえるでしょう。
動脈硬化の始まりはLDL(低比重リポ蛋白)の酸化にあるという説が有力です。したがって、このステップを防ぐことができれば動脈硬化を予防できるはずです。最近、抗酸化物質による動脈硬化の予防がしばしば話題にのぼっていますが、これは「抗酸化物質はLDLの酸化を抑えることにより動脈硬化を抑制する。」という仮説に基づいたものです。
今回発表された研究では、冠動脈疾患を有し、LDL正常、HDL低値の160人をランダムに4群に分け、冠動脈狭窄の程度、心血管イベントを3年間観察しています。
です。
LDL酸化説に従えば、C群がもっとも冠動脈疾患の進行が遅いと予測されます。ところが、実際にはC群はA群より悪いという結果となってしまいました。すなわちシンバスタチン+ナイアシンの抗動脈硬化作用は逆に抗酸化物質により妨げられてしまったということになります。研究者らは抗酸化物質がHDL2を低下させてしまったためではないかと推測しています。
この研究では、冠動脈疾患を有し、LDL正常、HDL低値という限られた人たちにスタチンとナイアシンと投与しているので、一般の人たちには当てはまらないのではないかという意見もあります。しかし、今までに行われてきた抗酸化ビタミン(ビタミンE、ビタミンC、βカロチン)による冠動脈疾患への介入試験の結果は抗酸化ビタミンの抗動脈硬化作用を必ずしも支持していません。Clinical Evidenceによれば、冠動脈疾患に対する抗酸化物質の一次予防に関して充分な科学的根拠はなく、βカロチンなどはむしろ害となるかもしれないといいます。また、二次予防に関しても、これら抗酸化ビタミンの役割は不明であるとしています。
健康食品の問題点としてたびたび指摘されていることは、「基礎研究に基づいた理論が先行し、臨床的な効果の実証が遅れがちである。」ということです。健康食品の中でも特に抗酸化物質は種々の病気を予防するとしてもてはやされていますが、これも例外ではありません。今回の研究は高脂血症治療薬と抗酸化作用をうたう健康食品との併用に注意を喚起するものといえるでしょう。
コンテンツ提供: 小内亨先生(おない内科クリニック)